AIJシェル空間構造設計技術レビュー連絡会NEWS
 第5号 2000.8.23.

(5)その他では、構造設計小委の年度内予定の確認があり、かなりのハードスケジュールです。また、建築基準法改定がらみの話題では、膜材料・構造の告示案のパブリックコメント募集が報告され、空間構造の告示案のWGの動向などが囁かれました。その秘密裏の動きにはとても協力できませんが、空間構造に告示は必要か、と疑問符を投げかける一方で、万一にも日常業務ができなくなっては、という心配を持つのは当然と思います。その狭間に揺れているのが現在でしょう。
 「建設省のミスリードで設計業界が損害を受けるなら裁判を起こす」と世論を味方に引き込んでオープンな脅しをかけるくらい、駆け引きが必要ではないでしょうか。「中立的なAIJに期待する」などというのは無理というものです。中立は動きにくいの代名詞?・代用詞です?。それでも世の中に動きあれば、それなりの責任ある反応がAIJからも出る可能性はあると信じます。以上は、こちらははなはだ無責任な、「楽しく裁判」のおすすめでした。
 日経アーキテクチュア(2000/6/26号)誌上の建設省住宅指導課長インタビューの発言「合理的でないバラツキが出るとまずい」に引っ掛けて、「合理的でない統一・統制の方がもっとまずい」「真理は、バラツキの中にあり得ても、統制の中にはあり得ない」と申しました。これは実務の実情からほど遠いたわごと(戯言)・ざれごと(戯れ言)とお笑いでしょうか。
 メインの技術報告会の「大阪ドームの構造設計について」では、先ず、構造設計者の日建設計・構造設計室の原克巳氏によるOHP資料を用いた報告をいただきました。全般的な説明ではさすが手慣れた報告をされて印象的でした。また、事前に送付した小委の関心事項には率直な説明がありました。引き続き質疑応答・意見交換は、耐震設計のレベル1・2や上下振動の取り扱いの説明で始まりましたが、特に、ドーム立ち上がり部分の折れのデザイン解釈やディテール設計で、また、リフトアップ工法の選択で、熱心な意見交換やら丁々発止の議論やらがありました。
 コンペのあり方にも議論は及び、コンペの結果が当選2グループから「いいとこ取り」は、果たしてコンペとしてフェアだろうか、という意見も委員からありました。コンペ実施以前にその了解が成り立っているならともかく、誰もそれを想定していなかったとしたら、コンペ参加者を騙したに等しくコンペの倫理に反するという考え方です。
 さて、あくまでも仮定の話ですが、当選が1グループに絞られ、その当選グループが、実施設計に自発的に他グループからのコンペ提案を積極的に取り込もうとしたら、それは倫理的に許されるでしょうか。もし許されるなら、その手続きはどのようにすべきでしょうか。また、その相手方のグループはどう対処すべきでしょうか。コンペ提案に関わる特許その他の独占権はどこまで主張が許されるでしょうか。実務家の皆様からのご意見をぜひ伺いたいと思います。
 コンペ実施者にとって「いいとこ取り」は悪魔的なくらい魅力でしょう。仮にストレートなものは否定されるとしても、際どく微妙なものならこれからも次々に出てきて不思議ではありません。予めシミュレーションしておいて対処法を考えておくのも予防倫理です。ご参考までに技術者倫理のホームページをご紹介します。http://www.onlineethics.or/。
 建築基準法改定で構造設計家はハッピーか、評定シミュレーションなども構造設計者に聞いてみたいと思っていましたが、上記の(5)の議論の単なるぶり返しはつまらないと思いやめました。
 技術報告会の終了後、原克巳氏を囲みウーロン茶とビールと熱燗とで喉を潤しつつ、大阪ドームの話題を中心にさらに幅広く建築・空間構造のテーマを論じ合いました。このような形で率直に・大胆に意見交換できたことは有意義でした。
 今回の技術報告会が、構造設計者の原克巳氏にとっても、何らかの意義を見出せるものになっていたなら、真に幸いであると思います。原克巳氏には、大阪ドームの資料のさらなる追加のお願いやら、現地報告会実施のお願いやらして、すべて快く協力の約束をいただきました。お盆明けには早速、追加の資料をご送付いただきました。
 これまで4回の技術報告会の何れでも、それぞれの構造設計者から面倒も厭わずに積極的な協力をいただき、心より感謝いたしております。この成果を広く公開する責務を、小委はこれから果たさねばなりません。小委としてのクライテリアを早急に定めて、技術レビューの作業を進める責任を強く感じます。


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