AIJシェル空間構造設計技術レビュー連絡会NEWS
第19号 2002.4.4.

多田英之著: 「建築の設計と責任 なぜ今も地震で建物が壊れるのか」 紹介
岩波書店2002.3.20.第1刷発行の出来立てほやほやです。以下に本書の目次構成を掲げます。
まえがき 第1章 日本という国土における建築 耐震と免震/基準法の改正/構造設計とは/私の憂鬱/設計と価格/設計とは決断である 第2章 建設というシステム 設計と施工と監理/検査と確認/監理にルーチンはない/確認こそが品質を支える/馬鹿タンクの話/入札と談合/性能確認と検収体制/ドキュメント1 システムの悪用 第3章 設計者と責任 「個」の力/設計事務所の倫理/再び、設計とは決断である/設計者とは/ドキュメント2 設計者倫理と企業論理の現実/集団組織の判断力の限界 第4章 建築基準法と構造設計界 悪法 建築基準法/建築基準法のさらなる改悪/いまこそ反対運動を/建築文化と行政/検査機関の幻想/建築と秩序 あとがき
随所に設計家への熱い思いが記され、そのあまりの理想像にはたじろぎます。初心を忘れず、純粋な青年の熱情を持ち続ける多田先生の身の処し方は見事です。第一級の体験に基づく具体例を通して本物とまがい物とを見分ける能力を教えてくれます。自前で考える本物の技術倫理には相応しい内容ですが、その率直な物言いに、まがい物の技術倫理ではとてもついていけないでしょう。

五十嵐敬喜著: 「美しい都市をつくる権利」 紹介
学芸出版社から2002.3.15.第1版第1刷発行のこれも出来立てのほやほや。以下が目次構成です。
第1章 なぜ美しい都市なのか? 第2章 美しい都市の検証 1.コナ・最後の楽園 2.広島県鞆の浦・迎賓都市の虚構 3.コロンバス・美の競演 4.群馬県新治村・それぞれの実直 5.エディンバラ・英国で最も美しい街 6.東京都国立市・合法性と正当性の対立 第3章 美しい都市をつくる権利 何もできない/新しい権利論/各国の憲法に見る都市論/「美しい都市」に住む あとがき
美と権利とを結びつけるタイトルにひかれて手にしました。「合法にして不当」の現実を乗り越えるための立法論に、建築基準法廃止から建築基本法への転換という手掛かりを得たい、顧客?の視点を考えるヒントにならないか、といった思いが重なって、場違いの誹りを覚悟しつつ紹介しました。
この本には、都市の美しさを台無しにした建築家、と厳しい指摘があります。これに自信をもって反論できない現実を正していくには、多田先生の記された設計家の理想像を折に触れて建築学生に説く必要があったのでしょう。何時の頃からか倫理観や職人気質が説かれなくなったようです。
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(編集後記): ぜひ多くの皆様に多田英之先生の著書「建築の設計と責任」をお読みいただき、読後の感想などお寄せくださいますようお願い申し上げます。本NEWS紙面で紹介させていただけるならなお一層幸いです。その際には、賛否両論いずれでも紙上で匿名でも、なんでも一切構いません。
それにしても、近頃は相互監視の社会の風潮が強まるばかりです。金は出さずに口だけは出す、の手合いが大学にまで跋扈して、日本中の大学に迎合・追従の奴隷根性が蔓延中です。建築基準法でも司法支援でもJABEEでも権力への擦り寄りばかりが見えてしまう学会にも'喝!'です。さて、皆様は今の風潮をどのようにお感じでしょうか。今回はちょっと過激に書いて異論・反論をお待ちします。

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