AIJシェル空間構造設計技術レビュー連絡会NEWS
第20号 2002.5.1.

第3回「建築基準法の改正を斬る!」シンポジウム4/11
耐震工学研究会(http://www.eenix.gr.jp/)主催の特別シンポジウムは「建築基準法の改正を斬る!-建築規制と資格制度のあるべき姿-」と題して、建築会館・大ホールを会場に4月11日(木)の午後に開催されました。フロアの参加者は120名を超えた程度でしょうか、年齢の比較的高い方々が目立ち、平均年齢は50歳から55歳といったところだったでしょうか。

受付で多田英之先生の新著が「著者謹呈」として配布されたことに驚き、先生の熱い思いが伝わって来るようでした。共感する読者は、それを広く若い世代へ伝えるべく活用することでしょう。奥付には第2刷とあり、少しうれしくなりました。まことにありがとうございました。
パネリストには大森文彦・岡田恒・アランバーデン・藤本昌也の各先生が出席され、司会は渡辺邦夫先生が担当されました。aij会長として大いに発言が注目された仙田満先生は、パネリストから降りシンポジウムに参加されなかったようです。先生の発言に期待していた聴衆から、「権力とのせめぎ合いになる面倒からは巧妙に逃げたのではないか。」と厳しい失望の声も聞こえたようです。
その代わり、新たにパネリストに参加された建築家・藤本昌也先生から、建築士会における10年来の資格制度問題の検討の成果が披露され、それなりにかなりの説得力を持っていたと思います。概要は「新たな建築資格制度のグランドデザイン」と題され、機関誌「建築士」'01.12号の特集「21世紀の建築を求めて 点検・建築の法律や制度」の中に論述されています。
弁護士・大森文彦先生は、建築基準法を国家的規制を行う公法であるが、契約自由の原則に基づく国民同士の私法関係に大きな影響を与えると前置きし、工事請負者の瑕疵担保責任と設計者の法的責任とについて説明され、建築紛争を数多く扱った経験から、建築士に対する国民の不信は根深く、それを払拭できなければ法規制に任せるしかない、とはいささか法律万能主義的な発言でした。この発言のように、エンジニアの能力向上に意義を認めない技術法を奉るばかりでは、何が法律家か、と敢えて問いたい気分でした。建築出身の方であると聞いていただけに期待が裏切られ残念でした。
建研・岡田恒先生は、建築行政や原案作成の立場からは程遠いところから、構造関係規定の改正に立ち会った立場からの発言ですとガードして、技術的な側面から原案作成に関わったが、いざ法令になると思惑と相当に異なったものになってしまう経験をし、改正作業は道半ば、実際にはうまく行かないものもありメンテナンスを施さねばならないと感じている、と述べました。行政権力・官僚機構の組織の中で押しつぶされそうになる技術家の良心の抵抗をささやかに表現した、といったところでしょうか。そのメンテナンスなるものが決して規制強化にならないように、法規制のダイオキシンを無害化する方向に一層努力されるように、厳しく監視する必要があるでしょう。岡田恒先生には、多田英之先生の言葉「個よ、組織に負けるな。」を贈りたいと思いました。
構造設計家・アランバーデン先生は、英国と日本とにおける構造設計の経験を比較し、英国では法律に細かい規定は一切なく資格エンジニアの関与により安全を確保すると説明し、日本での旧基準法38条の評定プロセスの利用経験から、実現例の中に今では実現できないものもあると述べました。旧38条は第一印象では曖昧と思ったか知れないが、実際に経験するととてもよいシステムであり、法律改正で日本のエンジニアが失った自己判断の領域を早く取り戻してほしい、と述べました。
旧38条が外圧のターゲットだったという行政の説明が事実だったとしても、その外圧に対し正面から論理を尽くして説明しようとしなかった属国根性の行政の怠慢が、今の日本の不毛な閉塞状況を導いた、ということを明確に示したアランバーデン先生の発言でした。
藤本昌也先生は、建築士会を中心にして資格制度の問題の議論に長年にわたり真摯に取り組まれ、建築の法律や制度の問題にも精通されているようでした。法律万能主義から脱却しグローバリズム信仰からも一線を画し、健全な市民的共感を背景にした職能団体の連携による資格制度を目指す、という良識派の建築家であるとの印象を持ちました。その藤本昌也先生にして「規制の性能規定化にはプラスイメージしか持っていなかった。」と発言されたことに、いささかショックを覚えました。
性能規定化のまやかしに最も抵抗すべき構造エンジニアの声があまりに小さくて、協働を常とする建築家のその最も良識派の方にさえ届いていなかったことを、この機会に構造エンジニアは真剣に反省すべきでしょう。その意味でも、このシンポジウム開催には大きな意義があったと思います。
このシンポジウムの開催に力を注がれた耐震工学研究会の皆様に心から感謝申し上げます。
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(編集後記): 建築基準法を斬る!シンポジウムの参加者に若い世代の方々が少なかったこと、不安を覚えます。総背番号制・教育統制・メディア規制・有事本紙発行記録(本号を含め計20号): 旧号コピーのご希望があれば、返送用封筒を添えお気軽にお申し出ください。

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