AIJシェル空間構造設計技術レビュー連絡会NEWS
 第29号 2002.12.18.

サーツシンポジウム「性能時代の技術認定」開催11/28
NPO・建築技術支援協会(PSATS=サーツ)主催のシンポジウム「性能時代の技術認定」が2002年11月28日(木)に開催された、と知人から情報が本紙NEWSの前号発行の数日前に入りました。日経アーキテクチュア 2002 12-9の34ページに紹介記事があります。まさか次の記事のシックハウス規制の政令案(2002/11/22)にその内容が含まれる、とは確認しなかったようです。
シンポジウム配布資料によれば、総合司会が菅野忠氏、現状と課題アンケート報告が池田博俊氏、技術認定アンケート報告が加瀬善弥氏であり、PD進行が安部重孝氏で、パネリストには、高見真二(国土交通省)・春原匡利(東京都)・梅野岳(久米設計)・富松太基(日本設計)・林幸雄(鹿島建設)の各氏が参加されました。配布資料にはサーツ・建築部会の提案(A4判1ページ)も含まれます。
URL http://www.psats.or.jp/katsudou/sympo2002hokoku.html

JSCA「基準法令性能規定見直し準備会」設置12/3
日本建築構造技術者協会(JSCA=ジャスカ)は、国土交通省住宅局による「建築基準法の性能規定の見直しについて(案)」及び見直し要請を受けて、基準法令性能規定見直し準備会(主査:木原碩美氏)を12月3日(火)午前に開催しました。2日後には専門紙による報道で、建設通信新聞と日刊建設工業新聞と2紙上(2002.12.5.)に大々的に報じられていました。実はこのNEWSを10日後に知ったのですが、実務家の皆様にはその時点で、もはや旧聞(≠NEWS)に属する事柄だったかも知れません。
2紙ともJSCA会長・大越俊男氏のコメントにかなり紙面を割き、建設ジャーナリズムは、以前からこの問題に高い関心を持っていた、という証拠のようです。例えば、建設通信新聞は、冒頭に
「性能規定を軸とした改正建築基準法の技術基準見直しを固めた国土交通省の動向に、建築団体が 敏感に反応している。日本建築学会(仙田満会長)、建築業協会(戸田守二会長)、日本建築構造技術 者協会(JSCA、大越俊男会長)などは相次ぎ専門委員会を設置し、自由な技術開発の門扉であった 旧38条認定の是非を焦点とした新たな技術基準の在り方について、それぞれが検討を開始した。」
と書いています。この「建築団体が敏感に反応」という書き方には記者の皮肉な眼差しを感じます。
ともあれJSCAも敏感に反応して、専門職能として恥をかかなくてよかった、と思います。どのような場合も、是正行為には「遅すぎる」ことはないのです。そのことが正しく報われることを望みます。
これら2紙に掲載された記事と準備会の議事録とは、JSCA内部の要所に配布されたようです。その議事録によれば、配布資料にE-Mail作戦に用いたタイトルと同名のものがあります。E-Mail作戦が少しは背中を押したかな、と勝手に想像したり、それなら、kenchiku-law@sakuragi-net.comに正式に情報を入れてくれないかな、と虫のいいことを考えたりします。
行政からは、新方針に基づき誠実に次々にこまごまと技術基準の改定案が出てくるでしょう。官僚の能力をこんな辻褄合わせだけに使うのは国費の無駄遣いだと思います。その結果を押しつけられる民の側にとっても労力の消耗だけに終わると思います。良識ある官僚のやる気を失わせ民の側のやる気を失わせることの悪影響は、将来的に、じわりと相乗的に効いてきそうです。何としても別の道筋をつけなければなりません。現行の建築基準法からは独立の、必要最小限の、新しい建築法制を作り上げるために、官も民も学も一致協力して推進すべきです。
国家の意思によるこの3年間の新技術の開発阻止を例題に、真剣に「失敗に学ぶ」ことが重要です。あらゆる分野において、専門裁量を認め、尊重しあうことが基本であり、その上で、裁量結果の説明責任が求められるのです。裁判官の裁量然り、行政官の裁量然り、そして、専門家の裁量然り、です。
理想はあくまでも高く掲げつつ、されど現実的な解決を目指して、役割を分担して一歩ずつ着実に前進すべきです。行政による「見直し」の方針転換をさらに一歩進めるために、民の側も、他の分野の専門職能と幅広く連帯し、専門職能の自立と自律とを勝ち取る気概が必要です。ここは、建築基本法の制定を社会に向け正々堂々と主張し、超党派の議員立法の道を探るべきであると思います。
国会質疑をされた斉藤鉄夫議員と、それに呼応して建築指導課に申し入れをされた渡海紀三朗議員とに改めて感謝し、これからのJSCAの準備会を中心にした活躍と成果とを心より期待します。

中村裕司・著「建設技術者が危ない」(日刊建設通信新聞社 2002/4)紹介
久し振りに八重洲ブックセンターを覗いてたまたま見付けた本です。A5判・256pp.・1700円+xです。副題に「よみがえれマネジメント・コンサルタントとして」とあります。橋梁設計会社の代表である著者は強い危機意識を持ち今後の技術者像を描きます。「"建設技術者"、その数およそ20万人。このうちざっと1/3から1/2が職を失うかもしれない。そんな時代に遭遇した。」と。著者は、お役所の指示待ち体制はもはや通用しないと言い切り、建設技術者が"自らの手で切り拓いた、歴史の評価に耐えうる、積極的未来"の構築を目指します。主張する土木を真摯に受け止めたい、と思いました。
第4章第4節では建築基準法の性能規定化にも触れています。その認識は実態から大きくかけ離れていますが止むを得ません。当事者も、お役所の指示待ち体制で、性能規定化への期待を膨らませたのです。著者の言う通り、それはもはや通用しないことでした。本書の目次を以下に示します。
はじめに 第1部 建設技術者が危ない!-危機の現状をさぐる 第1章 男の物語 第2章 危機は すぐそこに! 第1節 「セメントの靴」を脱ぐ日 第2節 "建設"の終焉 第3節 公共事業はニュービジ ネス!? 第2部 何がかわりつつあるのか?-われわれを取り巻く客観情勢を見る 第3章 国土を マネジメントするのは誰か 第1節 国土デザインを問い直す 第2節 創業垂統から守成維持へ 第4章 ゲームが変わる、ルールが変わる 第1節 ゲームが変わる 第2節 ルールが変わる(1):価値 を生み出す=VFMの思想 第3節 ルールが変わる(2):多様化する発注形態 第4節 ルールが変わる (3):仕様規定から性能規定へ 第5章 ボーダレスの渦の中へ 第1節 個人的な体験 第2節 もう 「海外」とは呼ばせない 第3節 わが手もて渦を鎮めよ 第3部 建設技術者が蘇る-蘇生へのポイン トを考える 第6章 都市へ、風景へ 第1節 日本のヘソにて 第2節 倒立した技術 第3節 聖職へ の回帰 第4節 風景を重んじる 第7章 21世紀の緊急指令 アセット・マネジメント 第1節 アセ ット・マネジメントとは何か 第2節 パブリックアセット・マネジメント 第3節 なぜ今、PAMか? 第4節 PAMは知の統合 第8章 プレーヤーも変わる 第1節 マネジメント新時代 第2節 2者構造 執行形態の限界が見えた! 第3節 第3のプレーヤーを待望する 第4節 第3のプレーヤーは何をもた らすか? 第5節 マネジメント・コンサルタント始動 第6節 戦略的マネジメント・コンサルタント 構想 第9章 知を統べる技術 第1節 土木は主張する 第2節 建設維新 おわりに 参考文献

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