平成19年5月24日

 

最近の建築法制について

 

弁護士  竹川忠芳 

 

 

特定住宅瑕疵担保責任履行確保法案が本年3月6日閣議決定され、ほどなく国会で正式に法律として認められ、平成20年4月頃から施行される見通しと言われております。

この法律は、民法で請負人に瑕疵担保責任を認めているところ、これを品確法で期間を10年としたり、売主にも瑕疵担保責任を負担させる旨の立法をして、責任者の範囲や責任期間を伸ばしたのですが、一昨年の姉歯事件で売主ヒューザーが倒産したため、その「実効性」がないではないかとの社会的非難を受けて急遽考えられた法案です。従って「・・・履行確保法案」と名付けられました。この法案には「保険法人」とか「保険料」といった表現がみられるため、住宅瑕疵に関する保険であると認識する向きも多いかと思いますが、実態は一種の共済制度と考えるべきものです。上記ヒューザーのように倒産した場合に備えて、売主等が全員強制的に加入させられるもので、売主等が支払う保険料は正直者には全く無用な費用とも言えるものだからです。言い換えると、「保険法人」がリスクを負って、保険加入者を選別したり、保険料を増減決定するのではなく、ほぼ一律の保険料を支払って、何度か(形だけに終わると思われる)現場調査を行うだけのものです。従って、瑕疵件数が少ないうちはやっていけると思いますが、多くなると、「これは瑕疵ではない」と言ってさじ加減するか、破綻するしかないと言えます。

私は、このような制度は「赤信号みんなで渡れば恐くない」というものでしかなく、大変に危険なものだと思います。

むしろ、住宅の品質を高めるために、また、悪質業者を締め出すために有用な制度を作るべく積極的に取り組んでいく必要があると思います。例えば、保険会社が自らリスクを負担する覚悟で住宅瑕疵保険を作れば、住宅の品質確保のため、保険会社はノウハウを積むでしょうから、市場で実効性のある制度が出来るのではないでしょうか。金融機関もノンリコースローンのような制度を設ければ、自らのリスクを回避するため、真剣にローン対象とする住宅を選別するのではないでしょうか。そのような制度にしなければ、そのうち破綻すると思います。

ところで、最近の建築に関する法律の改正や制定を見ると、余りに場当たり的なものとなっているようで心配です。

例えば、昭和25年に制定した建築基準法では、建築主事は法令適合性「確認」機関でしかありませんでした。「確認」の意味内容が不明確なこともあって、建築主事側は建物の瑕疵についての責任を負担する可能性の少ない制度でした。設計・監理の瑕疵は建築士、施工の瑕疵は施工業者と解されていたわけです。ところが、平成10年に建築基準法を一部改正して、確認するだけではなく、一部を「検査」する機関へと変質しました。そして、本年にはさらに改正されて、構造計算適合性「判定」機関を設けることになりました。これら「検査」の対象や「判定」の対象は、建築生産のほんの一部にすぎません。これで瑕疵のない建物が出来上がる保証は全くないと言ってもよいものです。しかし、社会的にはこれら改正に対して期待感ばかりが広がってます。あたかも、これで瑕疵のない良質の建物が出来上がると言わんばかりです。

また、このように重大な改正を行うのに、根本にある「理念」についての議論が全くされておりません。例えば、建築基準法が「最低基準」を定めるだけのものでしかないのに、この最低基準を満足する建物の建築を目ざしてよいのか、また、建築主事の権限拡大に伴いその責任はどうするのか、など、基本理念についての問題提起が全くされておりません。

そこで、制度に対する理念を今一度明確化して、社会内でこれを互いに認識し、確認し合って、そのうえで建築生産に関する制度設計を行うべきではないでしょうか。

私は、そのような意味で建築基本法を定め、建築生産の理念を互いに共有し合うことで、この理念を実現するための新たな法制度を作り上げる必要があると感じております。

inserted by FC2 system