平成19年6月23日

 

渋谷の温泉施設の爆発事故について

 

弁護士  竹川忠芳 

 

 

平成19年6月19日、渋谷区松濤の「シエスパ」という温泉施設で、温泉をくみ上げる際に発生する天然ガスが爆発して、従業員3名が死亡する事故が生じた。シエスパは、昨年1月の開業から半年程で入会者は12万人となるなど、立地の良さから人気の(女性専用の)温泉施設であったという。

ところで、爆発した源泉をくみ上げる施設は床面積90u弱の広さしかなく、このように狭い土地の掘削を可能にしたのはボーリングに必要な機械のスリム化によるという。いわば、技術の進歩により可能となった事業と言えよう。

シエスパの運営会社「ユニマットビューティーアンドスパ」は施設管理を別会社「サングー」に丸投げしており、施設にはガス検知器もなく、開業以来、ガス濃度の測定もされたことはなかったとのことであり、「サングー」によれば「ガスが出るとは事故後初めて知った」という、お粗末ぶりであった。

しかし、温泉施設を全国展開する他業者によれば、「ガスが出る危険のあることは常識であり、ガス分析器や検知器を設置するのは当然のこと」との指摘がされている。

ところが、「シエスパ」の設計・施工をした大成建設によれば、法律で定められたもの以外は発注者の求めがなければ勝手に出来ない、と、話しているという。

また、掘削業界団体「全国鑿井協会」の幹部は、「私たちはガスの危険性を説明するが、決めるのは発注者である」と述べている、という。

このように、誰も責任をもって温泉施設を設計・施工したり、運営管理していないことがハッキリしてくる中で、環境省が、厚労省などと規制、指導の統一基準作りに乗り出したとの報道がされた。なぜなら、温泉法では、@掘削により別の温泉に影響しないとか、A温泉成分が有害でないかを規制するだけで、運営中の温泉施設の安全管理を定めた法律がないからだという。

また、東京都は都内の温泉施設について、ガス検知器など安全設備の設置マニュアルを策定する方針を決めたとの報道もされている。これにより、今後は安全施設の設置が義務付けられることになるだろうとのことである。

しかし、こういった問題が起こると必ずや行政がこれら安全基準を定めることになるが、果たしてどれ程の意味があろうか。

これで、温泉施設を作るとなると、無用な足かせが多数出来上がることになる。それで必要にして十分な規制かというと、多くは必要以上の無用の規制ばかりが増えることになる。

その結果、大成建設がいうように、規制がないから私は悪くない、という論法が生まれてしまうわけである。

むしろ、本件では端的に、設計施工会社の責任を問うべきではないだろうか。また、掘削会社の責任を問うべきではないだろうか。

そして、何よりも、ビジネスを始めたユニマットグループの責任を問うべきではなかろうか。

これら三社に適切な責任を問うことで、今後は三社が技術の恩恵を受け、これをビジネスに利用するときは、そのリスクも負担し、出来ればそれを回避するため努力するようになることを期待したいと思う。

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